【書評】夢と魔法の会社も実は権力争いに揺れる伏魔殿だった

夢と魔法の会社の実態は世界最大級のメディアコングロマリット

皆さんはディズニーと聞くとどのようなイメージを持っていますか?

日本ではディズニーリゾートが非常に人気なので、『夢と魔法の国』の会社という印象が強いのではないでしょうか。

先日、ディズニーのCEO(最高経営責任者)を長年務めたボブ・アイガーの回顧録を読んだのでこの本の紹介をしたいと思います。

本の内容を紹介する前にまず注意していただきたいのは、この本にはディズニー作品の誕生秘話のようなクリエイティブな話はあまり出てきません。著者がディズニーに入社してCEOに就任するまでの個人的ないきさつと、CEO就任後はディズニーというメディアコングロマリットの企業経営の実務についてが大部分を占めます。

邦題はどこか自己啓発本のような題名です。題名にもなっている10の原則も冒頭で紹介されているので、自己啓発本的な性格もあるにはありますが、どちらかというと著者自身のキャリアを回顧する内容のほうが強いと思います。

現在のディズニーを形作ったCEO

著者のボブ・アイガーは2005年から2020年までの15年間にわたってCEOを務めました。

⬆️はディズニープラスのホーム画面です。

配信作品は大きく、5つのジャンルに分類されています。
著者がCEOに就任した2005年当時、ディズニー以外の4つのブランドはディズニーのものではありませんでした。ボブ・アイガーはまさに現在のディズニーの会社を形作ったCEOと言えると思います。

15年かけてそれぞれのブランドを買収していく経緯が描かれていますが、これらの買収に関する話が本書のクライマックスと言っていいと思います。

買収するにあたり登場する交渉相手も豪華な顔ぶれです。
ピクサーはスティーブ・ジョブズ、スターウォーズ のルーカスフィルムはジョージ・ルーカス、ナショナルジオグラフィックの版元である21世紀フォックスはルパード・マードックです。

特に、スティーブ・ジョブズとのエピソードは興味深いものでした。

以前、ピクサーのCFOを務めた人物が書いた『PIXAR 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話』という本を紹介したことがありました。

『PIXAR 世界一・・・』も本書もスティーブ・ジョブズとともに仕事をした人々による本ですが、これらの本を通して見えてくるスティーブ・ジョブズはお世辞にも付き合いやすい人間ではありません。自分の上司や同僚だったら間違いなく大変だと思います。

にも関わらず、とても人間臭くて魅力的な人物なのです。どちらの本もスティーブ・ジョブズを描いた本ではありませんが、どちらの本からも彼のカリスマ性の一端が垣間見えて、改めてすごい人だったんだなと実感させられます。

夢と魔法の会社も権力争いに揺れる伏魔殿だった

本書は著者がアメリカ3大ネットワークのABCでキャリアを始めて、ABCがディズニーに買収されたことでディズニーに入社し、CEOを務め上げるまでが描かれています。

ピクサーやマーベルなどの買収が後半の見所であるとすると、前半の見所は彼がCEOに就任する経緯に関する部分です。

彼の前任者はマイケル・アイズナーといって、80年代からCEOを務めた名経営者です。

アイズナーがディズニーを去った原因の一つが取締役会内での激しい対立でした。特にウォルト・ディズニーの甥にあたるロイ・ディズニーとの対立はまさに権力闘争そのものです。結局は両者とも会社を去ることになり、ボブ・アイガーが後任のCEOに就任します。

ディズニーは日本人にとってもっとも馴染みのあるアメリカ企業のひとつで、普段のニュースにもよく登場します。その中で時折、アビゲイル・ディズニーという創業者一族が経営陣を批判するニュースが流れることがあります。

このアビゲイル・ディズニーこそがマイケル・アイズナーと対立して会社を出されてしまったロイ・ディズニーの娘です。経営陣を批判している記事を読むと彼女の主張はもっともらしいように聞こえますが、ここまで熱心に長年にわたって現経営陣への批判を繰り広げるには、背景となるこれまでの経緯があるのだなと読後に納得させられました。


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