エネルギー事業に投資するバフェットの真意

5月に保有する金融株の一部を手放して以降、沈黙を続けてきたウォーレン・バフェット氏がついに動きました。

バフェット氏、1兆円で天然ガス輸送事業買収(写真=ロイター)

【ニューヨーク=宮本岳則】著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハザウェイは5日、米ドミニオン・エナジーから天然ガス輸送・貯蔵事業を買収すると発表した。有利子負債を含めた買収総額は97億ドル(約1兆380億円)。バークシャーとしては新型コロナウイルスの感染拡大以降、初の大型買収となる。 …

報道によると、電力大手のドミニオン・エナジー(D)から天然ガス輸送・貯蔵事業を買収したとのこと。現金40億ドルをドミニオンに支払い、57億ドル相当の負債も引き継ぐ、つまり97億ドル相当で買収したとのことです。ちなみにバークシャー のキャッシュポジションは1,370億ドルもあるので今回の買収資金は手元現金でまかなえます。

買収はバークシャー ・ハサウェイ(BRK-B)の子会社のバークシャー ・ハサウェイ・エナジーを通して行われ、バークシャー 側は8,000マイル(12,800km)近くの天然ガス輸送パイプラインや大型の天然ガス貯蔵施設を取得するとのこと。バークシャー はこの取引により、米国内の天然ガスパイプラインの18%を所有することになります。

ドン底のエネルギー業界

実はエネルギー業界は今年に入ってドン底の状態です。

理由は2つあります。
まず、需要面、コロナウィルスの世界的流行による原油需要の激減です。世界中で外出が自粛されたため、航空向けの需要、自動車向けの需要などが激減しました。
2つめは供給面です。サウジアラビアとロシアが協調減産協議の決裂を理由に原油を増産しました。
供給の急増と需要の激減でダブルパンチを受けた原油市場は、4月19日には史上初めてマイナス価格を付けました(つまり売る側がお金を出して原油を買ってもらう状態)。

サウジとロシアの原油増産の背景には、両国がアメリカのシェールオイル企業の駆逐を目論んだという見方があります。
シェールオイル・シェールガスというのは地層の岩盤の間に埋蔵されているガス・石油のことで、昔からその存在は知られていましたが、それを取り出す技術がありませんでした。2000年代に入るとアメリカで技術革新が起こり、岩盤の間からオイル・ガスを取り出す技術が確立されます。アメリカの産油量・天然ガス産出量は激増しました。ちろん、それまでの産油国・天然ガス産出国であったサウジやロシアはシェールオイル・シェールガスの登場によって大きな打撃を受けました。アメリカのシェール企業はサウジ・ロシアにとってはいわば目の上のたんこぶだったので、今回、一気に増産し、アメリカのシェール業界に大打撃を与えようという魂胆だったというわけです。実際に5月以降、アメリカではシェール企業の経営破綻が相次いでいます。

バフェットの狙いは?

このようにエネルギー業界は2020年に入ってから踏んだり蹴ったりの状態なわけです。
では、なぜバフェットは天然ガス事業の買収に踏み切ったのか?
理由はいくつか考えられます。

  1. 天然ガスは石油・石炭よりも二酸化炭素排出量が少ないため、将来それらのエネルギー資源(特に石炭)に取って代わる可能性が大きい
  2. 天然ガスは暖房や調理に主に使用されているので、景気循環の影響を受けにくい(不景気でも需要が激減しない)。
  3. 当局の規制強化や環境保護の世論の影響により新たに大規模なインフラを構築することが難しいため、新規参入が難しい。

いずれも調べながらなるほどなと納得してしまいました。特に3番目の新規参入が難しいというのは典型的なエコノミック・モート(経済的な堀)です。

エネルギー分野はバフェットのお気に入り

エネルギー分野は以前からバフェットのお気に入りの分野でした。エクソン・モービル(XOM)やフィリップス66(PSX)に投資してきました。ちなみにフィリップス66は今年の第1四半期(1〜3月期)に全株売却されています。
私は正直、バフェットの真意を測りかねていました。なぜ、バフェットはエネルギー株に投資するのだろうか?
私がエネルギー株に否定的な最も大きな理由は原油価格や景気循環によって業績が左右されるからです。しかも電気自動車や再生可能エネルギーの普及で需要は先細りするのではないかと思っています。

ただ今回、天然ガスについて少し調べてみたところ、もしかすると投資妙味があるかもしれないなと思うようになりました。
以前、『株式投資の未来』という本を紹介しましたが、この本の中で20世紀の高パフォーマンス銘柄としてフィリップ・モリス(PM)が取りあげられていると紹介しました。
フィリップ・モリスが高パフォーマンスだった理由として本の中で、

  1. 訴訟リスクや喫煙のネガティブイメージから不人気であったこと
  2. 高配当であったこと

が挙げられています。
もしかすると天然ガス事業はこれに当てはまるのではないかと思い始めています。しかも市場の評価が低い魅力ある事業に投資をするという手法はバフェットのお家芸です。

ただ、投資判断はそんなに簡単には下しません。今後、時間をかけて調べてじっくりと検討していきたいと思います。