ジョブズ&イチロー 名プレイヤー=数字上優れているとは限らない!?

『マネーボール』とイチロー

『マネーボール』という本があります。
ビリー・ビーンというオークランド・アスレティックスのゼネラルマネージャー(GM)を主人公に彼のチーム作りについて書かれた本で、2003年に書かれた本ですが、アメリカ球界の常識を一変させた本です。2011年にはブラット・ピット主演で映画化もされています。

アメリカの野球界では監督はいわば現場の中間管理職でほとんどのチームではGMがチーム作りの上で最高の意思決定者で最終的な責任者です。GMと監督が意見対立した場合、GMが意思決定の最高責任者なので、監督が解任されるケースがよくあります。

この本で紹介されたビーンGMの戦略は徹底したデータ主義です。セイバーメトリクスという統計学的に野球を分析する手法でチーム戦略や選手の獲得戦略を立てました。主な戦略は以下のとおりです。

  • 打率よりも出塁率重視=四球はシングルヒットと同じ価値がある
  • 送りバントは得点確率が下がるので採用しない
  • 投手の防御率は運が作用するので重視しない

細かい点はまだまだいくつもあるんですが、ざっと挙げるとこんな感じです。
今ではどの球団も当たり前に取り入れていますが、発刊当時は非常に注目されました。上の条件に当てはまる選手が注目された一方、当てはまらない選手でそれまで高い評価を得ていた選手にはその高評価に疑問の声が上がるようになります。

イチロー選手がそのうちの一人でした。
彼は打率と安打数は特筆すべきものがありますが、四球が少なく出塁率は3割台の年も多く、過大評価されているとする声が一部で挙がりました。数字上では必ずしも優れているとは言えないのではないか、もしくは数字以上の過大評価がなされているのではないかという意見でした。

私は個人的には上記のような数字を重視する意見も理解できる一方で、野球を観客を集めるビジネスと考えた場合、彼のカリスマ性や集客力によるチームへの貢献は大きいものがあったと思います。華麗なプレーで人々を魅了することは数字には表れません。非常に評価が難しい選手のひとりだと思います。

スティーブ・ジョブズとティム・クック

先日、ティム・クックの伝記を読みました。『ティム・クック アップルをさらなる高みへと押し上げた天才』という本です。

彼はスティーブ・ジョブズの後を受けてアップルのCEOになった人物ですが、正直、彼が就任したとき、私は彼のことを知りませんでした。まだアメリカ株にも投資していなかった時期だったので、単に私が知らなかっただけかもしれませんが、それでもジョブズほどの知名度はなかったでしょう。今でも一般のアメリカ人や日本人の間での知名度ではジョブズには及ばないと思います。

そして今でも彼には地味な印象があると思います。新製品発表会の彼のプレゼンはジョブズほど注目されませんし、ジョブズ時代ほどワクワクする躍動感や感動はありません。

しかし、彼をひとりの経営者として見た場合、私はジョブズよりも優れていると思っています。
以下はクックが就任した2011年と直近の2019年のアップルの売上とEPS、PERです。

2011年2019年変動率
売上1,082.5億ドル2,601.7億ドル+140%
EPS3.95ドル11.89ドル+201%
PER11.53倍23.12倍+100%
時価総額3,943.5億ドル1兆2,968.2億ドル+229%
※PER、時価総額はそれぞれの年末時点

いずれも素晴らしい数字だと思います。

本では2011年にクックがジョブズからCEOを引き継いだ際、社内の雰囲気や労働環境を改善させたという話が出てきます。
スティーブ・ジョブズは世の中にiPhoneやMacなど素晴らしい商品を送り出しました。その事績は誰もが認めるところだと思いますが、会社のリーダーとしてはかなりアクの強い人物だったようです。

  • 部下には完璧な仕事を常に求め、決して妥協しない
  • 部下の仕事ぶりに満足できないと罵り、怒鳴り散らす
  • 部下に深夜や早朝でも関係なく仕事のメールや電話をする

どこのブラック企業の話だと思ってしまうような話ばかりですが、今や時価総額で世界1、2を争っているアップルの社内はクックCEOが引き継いだ当時、殺伐とした雰囲気だったと表現されています。クック自身もジョブズに負けず劣らずのワーカホリックらしいですが、職場の殺伐とした雰囲気は彼がCEOになってから徐々に変わっていったようです。

ジョブズはカリスマ性があり、芸術家肌の人物でした。彼自身、ボブ・ディランに憧れ、ロックスターのような生き様に憧れていた節があります。iMacやiPod、iPhoneは彼だからこそ生み出せたと言っていいと思います。まさにジョブズはイチローでした。数字には表れない魅力があったと思います。
一方のクックは実務の人です。IBMやコンパックを経てアップルに入社し、オペーレーション部門でその手腕を発揮してCEOを引継ぎました。オペレーション部門の時の彼の仕事が、現在のアップルにも生きているというのは以前、記事で書いたとおりです。

クックのCEOとしての成功はジョブズの遺産の上に成り立っています。もちろんジョブズなくして今日のアップルはありえません。しかしクックが単にジョブズの遺産をそのまま引き継いでいただけでは、今のような成功はなかったと思います。

2011年当時、アップルのPERは上にあるとおり11倍台でした。昨年末には23倍台、現在は35倍台まで上昇しています。原因は市場環境などいろいろ考えられると思いますが、ハードからの脱却は大きな理由のひとつだと思います。

アップルはiPhoneなどハードを販売して儲けている企業です。しかし、近年はそういったハードの販売だけでなく、動画や音楽配信のサブスクリプションやApple Payなどサービス部門での売上の拡大を図っています。そういったサービス部門はクックがCEOになってから始められた事業で、サブスクリプションや金融サービスなどはハードの販売と違って継続的で安定的なキャッシュフローが期待できます。ハードからの脱却がなければ、近年のPERの上昇はなかったと思います。

アップルやティム・クックに興味がある方にはおすすめの一冊です。