日本国内を走る車がテスラだらけになる日

テスラのイーロン・マスクCEOが世界一の資産家に

アメリカの経済誌フォーブスは『Real Time Billionaires』というページでその日時点の世界の資産家ランキングを毎日発表しています。
今週、テスラ(TSLA)のイーロン・マスクCEOが初めて1位になりました。

彼にこれほどの莫大な富をもたらしたのは言うまでもなくテスラ株の上昇です。
昨日、テスラ株は7%上昇しました。自然とマスク氏の資産額も7%上昇しています。それにしてもテスラ株が7%上昇すると1日で保有資産が125億ドル(約1.3兆円)増えるってすごいですね。庶民の私からするとまさに異世界の人です。

テスラ株はものすごい勢いで上昇しています。
昨夏、時価総額がトヨタを上回ったとニュースになりましたが、現在、トヨタの3倍以上になっています。それだけでなく、トヨタ、ゼネラル・モーターズ(GM)、フォード(F)、ホンダ、フィアット・クライスラー・オートモービルズ、フォルクスワーゲンの世界の自動車メーカー大手6社の時価総額の合計よりも大きくなっています。

もはやファンダメンタルズでは到底説明しきれない株価水準だと思います。予想PERは337倍、株式益回りは0.3%です。
短期では株価は買われすぎだと思いますが、ここまで買われるにも理由があります。強いブランドとエコシステムを武器に20年、30年後には自動車業界版アップルのような存在になる可能性を秘めた会社だと思います。

日本の電機メーカーが歩んだ末路

私が子供のころ、家の中の電化製品はほぼすべて日本メーカーのものでした。テレビ、VHS・DVDレコーダー、CD・MDコンポ、PC、プリンター、腕時計(私は高校生のとき、Gショックをいくつか持っていました)、そして携帯電話。

今でも冷蔵庫や電子レンジなどの白物家電はほぼすべて日本メーカーのものですが、それ以外のものはすっかりアメリカのメーカーのものに置き換わってしまいました。我が家にあるPCとスマホ・タブレットはすべてアップル製品です。
そもそも腕時計やVHS・DVDレコーダーやCD・MDコンポはPCやスマホ・タブレットがその機能を兼ねるようになり、ビデオを見るためだけ、音楽を聞くためだけの機器は姿を消しました。私は腕時計をしなくなり、うちの妻はアップルウォッチをしています。

直近20年で日本の電機メーカーを取り巻く環境は激変しました。
ソニーはPC部門のVAIOを切り離し(個人的には中学生のころ、VAIOに憧れを持っていました)映画・や保険などで経営を多角化、東芝は倒産寸前までの経営危機に陥り、シャープは台湾の会社に買収されました。
20年前、日本人が持っている携帯電話はほぼすべて日本メーカーのものでしたが、今ではiPhoneが圧倒的なシェアを誇っています。日本は世界でもiPhoneのシェアが最も高い国のうちのひとつです。

脱炭素(カーボンニュートラル)政策と日本の自動車メーカーの反応

菅政権は2050までに脱炭素社会(カーボンニュートラル)を実現するという目標を掲げました。
それを受けて、トヨタ自動車の豊田社長が日本自動車工業会(自工会)会長として懸念を表明しています。

豊田会長の訴えは論理的で真っ当だと思います。彼は世界最大の自動車会社のトップで、下請け孫請けまでを含めると全世界中の何千万人という雇用に直接的・間接的に責任を負う立場です。
日本の電力事情が火力発電に依存していることは紛れもない事実で、現在の日本では発電するにも多くの二酸化炭素を排出しています。日本政府は口先でカーボンニュートラルやEV移行を言うだけでなく、その電力をどういった電源で賄うのか真剣に考えなければならないと思います。

ただ電源の問題とはべつに、日本の自動車メーカーが世界のEV化の流れに乗り遅れれば、日本の電機メーカーの二の舞を踏む恐れが十分にあると私は思います。気がついたら日本国内を走る車の多くが海外メーカーのものになってしまっていたという事態になりかねません。

そもそも、自動車のEV化はCO2削減だけでなく、自動運転技術導入にも必要な技術です。
自動運転には当たり前ですが、自動車に搭載されているコンピューターが車を自動で制御する必要があります。その際、ガソリンを燃やしてエンジンを動かす内燃機関を制御するのと、バッテリーからの電気で動かすモーターを制御するのでは、モーターの方が技術的に安全で簡単です。ガソリン車での自動運転も技術的に不可能ではないようですが、EVの方が相性がいいとされていて、完全自動運転(レベル5)に向けた世界中の研究開発も基本的にEVでの運用を前提に進められています。

もし仮に日本メーカーがガソリン車やハイブリッド車での自動運転を確立させたとしても、ヨーロッパやアメリカや中国で自動運転技術がEV主流になった場合、日本メーカーの欧米でのシェアは急激に下がるでしょう。
ヨーロッパでは2030年にはガソリン車の新車販売が禁止されます。中国も将来的にはガソリン車の販売が禁止されることが決まっており、アメリカでも一部の州では将来的なガソリン車の販売禁止が決まっています。人口減少が進む日本国内の需要だけで日本の自動車メーカーの経営が成り立つとは思えません。

ガソリン車の販売禁止はハイブリッド車に強みのある日本メーカーに追い風だという意見もありますが、その見通しは甘いと思います。EVの航続距離が伸びて充電スタンドなどのインフラが普及すれば、ハイブリッド車は姿を消します。技術的にモーターだけで動かせる車にわざわざ余計な費用をかけてエンジンを積む必要はありません。モーターとエンジン両方が必要なハイブリッド車がモーターだけのEVより安くなることはありえません。

90年代以降のいわゆる「失われた30年」のあいだ、日本の自動車産業は日本経済の屋台骨でした。日本に自動車産業がなかったら、過去30年の日本経済はもっと悲惨な状況になっていたでしょう。

しかし、その自動車産業でさえ、この先20年、30年は安泰ではありません。
トヨタ自動車の豊田社長は非常に優秀な経営者だと思います。立場上、公の場で言えることと言えないことがあると思いますが、この先、EVが主流になり、ガソリン車がやがては姿を消す運命にあることは重々わかっていると思います。

EVはガソリン車よりも部品の数が少ないですから、日本の自動車メーカーを支えている部品メーカーは厳しい状況に追い込まれるでしょう。世界のEV化の流れに乗り遅れれば、自動車部品メーカーでけでなく、日本の自動車産業が衰退していってしまうことにもなりかねません。

日本メーカーの自動車は非常に高品質で世界に誇れるものだと思います。日本人としてぜひ日本の自動車メーカーには頑張って欲しいと思いますが、前途は多難で非常に厳しいものがあると言わざるを得ません。