マイクロソフトのCEOが外国人というアメリカの強み

マイクロソフトCEOサティア・ナデラ

年末は、マイクロソフト(MSFT)のサティア・ナデラCEOの著書『Hit Refresh(ヒット リフレッシュ) マイクロソフト再興とテクノロジーの未来』を読んでいました。
淡々とした文章ではありますが、彼の生い立ちや人となりがよくわかる興味深い本でした。

この本を読むまでは正直、彼のことはよく知りませんでした。
2014年にマイクロソフトのCEOに就任し、それを前後してクラウドサービスを武器にマイクロソフトは復活を遂げました。彼はマイクロソフト復活の立役者で非常に評価されている有能なCEOといった程度のイメージでした。決算カンファレンスコールで彼のプレゼンを聞くことがありますが、インドアクセントの英語からか、なんとなくプラグマティックな人というイメージもありました。

彼はインド出身(インド系の移民ではなくインド生まれインド育ちの純粋なインド人)で、大学まではインドで暮らしていました。その後アメリカの大学に留学し、1992年にマイクロソフトに入社しています。

本書の前半はクリケット好きのインド人の青年が家族も恋人もインドに置いてアメリカに渡り、大学で勉強してシリコンバレーの企業に就職、マイクロソフトに転職し、やがてCEOに就任、傾きかけたマイクロソフトを改革して復活させるまでの回顧録です。

後半はクラウドやAIなどのテクノロジーと人類の未来について語られています。個人的には後半は少しお堅い話が淡々と続く印象で、前半の方が面白かったかなと思います。

⬆️は過去10年のマイクロソフトの株価の推移です。2000年代前半のITバブルの崩壊以降、世界的にパソコンが普及し新たな需要が落ち込む中、マイクロソフトは長期にわたって低迷します。
さらに2007年にアップル(AAPL)がiPhoneを発表すると人々のPC離れが起こり、さらにスマートフォンやタブレット普及の波にも完全に乗り遅れて低迷に拍車がかかります。

彼はCEOに就任後、当時のマイクロソフトが抱えていた柔軟性・創造性の欠如といった企業体質を改善させるため、社内改革を行います。

かつてのマイクロソフトの文化は柔軟性にかけた。(中略)会議は型どおりで、すでに会議の前に詳細が余すところなく決まっていた。直属の上司よりも上の上司との会議はできなかった。(中略)階級や序列が幅を利かせ、自発性や創造性がおろそかにされていた。

『Hit Refresh(ヒット リフレッシュ) マイクロソフト再興とテクノロジーの未来』より

マイクロソフトはアメリカのテクノロジーを牽引してきた企業で、リベラルな社風のイメージだったので階級主義や柔軟性の欠如といった弊害に悩まされていたというのは正直意外でした。

ナデラCEOは組織改革のために3つの原則を掲げます。

  1. 顧客を第一に考える
  2. 多様性の尊重
  3. 社内組織の縦割りを乗り越えて会社として団結する

社内改革が奏功して、クラウドサービスやサブスクリプションといった新たな武器を強みにマイクロソフトの業績は次第に回復、株価も上のチャートのように上昇していきました。

成功したナデラCEOに相対して低迷期の経営を担っていた前任者のスティーブ・バルマー前CEOの世間での評価はあまり高くありません。

しかし、ナデラCEOはこの本の中で、マイクロソフトのクラウドでの躍進の足掛かりは、バルマー前CEOが先頭に立ち、マイクロソフト・オフィスなどのソフトウェア事業からクラウド事業への移行を積極的に推進したことにあると述べています。

自身がCEO就任後に実現した成功すべてを自らの手柄としたり、前任者の貢献にはあえて言及しないこともできたかと思いますが、自らの成功であっても物事を客観的に分析する姿勢はすごいことだなと思いました。

国を代表する大企業のCEOが外国人

ナデラCEOが社内の組織改革の原則に、『多様性の尊重』というものがあります。

そもそも、国を代表するテクノロジー企業のトップが外国人であるということがアメリカ社会の多様性を象徴していると言えるかと思います。さらに、この本の中にも少しだけ登場しますが、グーグルの親会社のアルファベットのサンダー・ピチャイCEOもインド生まれインド育ちの純粋なインド人です。

イノベーションがアメリカから次々と出てくる源泉のひとつは多様性(ダイバーシティ)にあると思います。
GAFAMなどと言われ、近年は悪者になることが多いアメリカの巨大テック企業ですが、5社のうち2社のCEOが外国人であるということはアメリカ社会の多様性を象徴していて、当の本人も多様性を尊重することの重要性を理解しているからこそ、社内の組織改革の3つの原則のひとつに『多様性の尊重』を掲げたのだと思います。ちなみにアップルのティム・クックCEOは人種としては白人ですが、ゲイであることを公言していて、そういった面においては彼もマイノリティです。

私はいまだにマイクロソフトには投資できていませんが、この本でナデラCEOのファンになりました。投資する上で、経営者に対する信頼性の高さというのは、投資自体の自信にも繋がってくると思います。

ゴタゴタしているアメリカ国内だが・・・

昨年のBLM運動以来、アメリカ国内は分断が著しく、ゴタゴタが収まりません。
人種の問題は昔から常にアメリカ社会の課題であり続けましたが、それは多様性(ダイバーシティ)の代償でもあります。

人種差別の問題などで多くの人が傷付いたり、最悪の場合殺害されたりしてきましたが、多様性があるからこそアメリカは長くに渡ってイノベーションの源泉であり続けられていて、世界で圧倒的に強い国力の源泉であり続けてきました。