オリンピックと万博 日本人の忘れられない過去の成功体験

デジタル担当大臣と万博担当大臣

菅新内閣が昨日、発足しました。
閣僚名簿をみると、今までに見たことのない大臣が目を引きます。

デジタル担当大臣
万博担当大臣

インターネットが一般に普及して20年以上、スマホが登場して10年以上が経とうとしているときに、デジタル担当大臣を新設とは日本の行政は世の趨勢から10年、20年の周回遅れなのかとため息が出てしまいます。東京都のコロナウィルスの感染状況の報告にFAXを使っているという話題も先日ありました。日本の行政の「紙からの脱却」には今しばらく時間がかかりそうです。

万博担当大臣なるポストも新設されたそうです。
2025年に大阪で万国博覧会が開催されることが決まっています。それに向けての調整役、ということなのでしょう。

オリンピック➡️万博という流れはどうしても前回の東京オリンピック➡️大阪万博が開かれた高度経済成長期を想起させます。

高度経済成長とオリンピック・万博

以前、『昭和史 戦後篇 1945-1989』という本を読んでいるとチラッとご紹介したことがあります。『戦後篇 1945-1989』と銘打たれていますが、実質的には1972年までの話がメインです。つまり高度成長で日本が復興し、大阪万博を無事終えたぐらいの時期までです。
著者は元週刊文春編集長の半藤一利さんです。半藤さんは1930年生まれで1953年に文藝春秋社に入社しているので、まさに戦後と共に生きてきた世代の一人です。半藤さんは終戦時中学生で、すでに物心ついている世代なので、個人的な体験や当時自分がどのように世相を見ていたかが随所に語られます。
よく「激動の昭和」や「奇跡の戦後復興」などという慣用句が用いられます。その時代を知らない世代からすると漠然としたイメージしかありませんが、当時市井を生きていた人の生の声を聞くと生活の変化が実感できます。

私が小さいころ、大正生まれの祖母に「戦後は本当に食べるものがなかった」という話を聞かされたことをおぼろげに記憶していますが、この本でも、食べるものがなくとにかく腹が減って仕方がなかったと当時の生活の窮乏が触れられています。モノ不足による強烈なインフレで、非合法のヤミ市でないと生活物資が得られないが、食料も何もかも値段が高く、皆が腹を空かせていたと語られています。

1948年、1949年ごろには物資不足は徐々に解消されていったようで、1950年に発生した朝鮮戦争による軍事特需で日本経済は弾みを付けます。
1952年にサンフランシスコ講和条約が発効し日本が独立を果たすころには、隅田川沿いのビアホールで大学の先輩にビールを奢ってもらって感動したという半藤さんの体験談もあります。食糧不足で餓死者も出ていたのに、数年後にはビアホールでビールを飲んでいるというのはすごい生活水準の向上ですね。1953年には戦前の国民所得水準を抜きます。戦後8年で国民の生活水準は戦前並みにまで回復したということですが、すごい回復だと思います。
1956年には有名な「もはや戦後ではない」というフレーズが経済白書に登場します。

その後、1960年に安保改定をめぐる安保闘争で流血のデモが頻発する騒ぎとなりますが、いざ安保改定が決まってしまうと首相も岸信介さんから池田勇人さんに交代し、世の関心が政治から経済に移ります。デモに参加していた大部分の大学生たちは髪を切って就職し、企業戦士よろしくガムシャラに働くことになります。
池田内閣は「寛容と忍耐」を合言葉に「所得倍増計画」を政策の柱に打ち立てます。GNP(国民総生産)が年率8.8%で成長すれば、10年で2.3倍になり、国民の所得も倍増するというものでした(余談ですが、8.8%成長すると10年で2倍になるのは複利効果ですね)。

GNP倍増は6年、所得倍増は7年と当初の計画より数年早く達成されます。前回の東京オリンピックは1964年、大阪万博は1970年ですからまさにそういった世の流れの中で開催されたわけです。半藤さんは「本当に皆が人生を楽しんでいた。世相全般が明るかった」と述懐しています。

高度経済成長による日本人の強烈な成功体験

実際の経済成長は1950年の朝鮮戦争直後から始まっていたということですが、「高度経済成長」というと多くの人が60年代の東京オリンピック、大阪万博前後の時期をイメージしがちです。
これはやはり、「戦後焼け野原から経済復興してオリンピック、万博を開催した」という成功体験が強く日本人、特に今の65歳以上の年代の人々に脳裏に焼きついているからだと思います。
菅新首相は1948年12月生まれなので前回の東京オリンピック時に15歳、大阪万博の時は21歳でまさにその世代ど真ん中です。

ちなみに万博担当大臣の創設が菅さんの意向によるものなのか、他の人の進言によるものなのかは知りません。オリンピックと万博に対する過去の成功体験もあくまで一般論で菅さん本人に当てはまるかどうかの確信もありませんが、どうも年配の人ほどオリンピック・万博に張り切っていて、若い世代ほど冷めていると私は感じてしまいます。

バブル崩壊後に物心ついた世代、年齢でいうと35歳以下の世代(私もそのうちの一人ですが)は「本当に皆が人生を楽しんでいた。世相全般が明るかった」という時代を生まれてこの方、経験したことがありません。
もちろん物質的には豊かな時代でした。食べるものに困ったことはないですし、ビールを飲んで感涙したこともありません。

オリンピックや万博を開催すればモノとヒトが動きます。モノとヒトが動く以上、経済にプラスであることに異論はありません。ただ、60代以上の年代の人たちのオリンピックや万博への期待やはしゃぎ様には白けることがあります。一方で日々、生活水準が上がっていって希望に満ちた世の中、明るい世相というのは素直に羨ましいなと思う面もあります。経済的にも社会的にも成熟しきってしまった日本でそのような世の中を今後の私の人生で経験できるかはかなり懐疑的ではありますが。