民主党支持者と製薬会社・保険会社
先日、アメリカ人の友人と話していたんですが、「製薬会社は許せない」と憤っていました。なんでもアメリカは薬価が高すぎるのに、製薬会社が下げようとしないというのです。
ちなみに彼個人の政治的立ち位置として、民主党地盤のブルーステート出身の生粋の民主党支持者です。トランプ大統領を目の敵にしています。
アメリカの薬価制度についてはほとんど知識がなかったのですが、軽く調べたところ、アメリカでは適正な薬価は市場競争によってもたらされるという考えのもと、製薬会社の自由裁量で決定されるとのことです。その際、海外での価格が参考にされることはありません。
私の友人のような民主党支持者には医療関係企業のイメージはよくありません。彼らに評判の悪い業界は製薬のほかに保険会社があります。
アメリカには日本のような皆保険制度はありません。医療保険は基本的に自前で入らなければなりません。小さな政府志向の共和党は、皆保険制度は保険に入るかを選択する自由の侵害だとして反対する一方、民主党は現在の制度では貧困層の人々は結果的に無保険になってしまう人が多く、医療の公平性を担保するためには皆保険制度が必要だと長年訴えていますが、実現には至っていません。
アメリカでは企業が政治家に対して献金を行い、有利な政策を推し進めるよう陳情を行うロビー活動が活発です。民主党支持者からすると、保険会社は皆保険制度導入を阻む強力な抵抗勢力です。
基本的にウォール街は共和党の支持が強いところです。共和党は現在のトランプ大統領のように大企業に対して減税策など有利な政策を採用することが伝統的に多いです。共和党は市場主義的な立場なので、民主党支持者のように政治的な理由である企業や業界に対して著しくネガティブなイメージを抱くことは少ないと思います。彼らにとっては市場競争とリターンこそがすべてです。
企業の政治的なイメージは投資行動に影響を与えるのか
では、そういった企業の政治的なイメージは人々の投資行動に影響を与えるのでしょうか?
結論から言うと、それはわかりません。投資家の個人的な政治思想まで把握することは不可能だからです。
しかし、そういった要素がある企業を把握し、軽くでもいいので分析することは無意味なことではないかなと思い、今回データをまとめました。といってもPERのみですが。
まず、製薬会社です。世界の売上高世界5位までの企業です。世界売上1位はスイスのロシュですが、アメリカ市場に上場していないので省きました。
銘柄 | PER |
---|---|
ファイザー(PFE) | 14.40 |
ノバルティス(NVS)※スイス | 27.90 |
メルク(MRK) | 19.69 |
グラクソ・スミスクライン(GSK)※英国 | 37.54 |
ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ) | 25.73 |
簡単に見比べることはできないと思いますが、スイス籍のノバルティス、英国籍のグラクソ・スミスクラインと他の米国企業3社を比べると、アメリカ勢はPERでは見劣りがします。特にファイザーは14倍台と、アメリカの大型株としては低い水準だと思います。
次に保険会社です。
銘柄 | PER |
---|---|
ユナテッドヘルス(UNH) | 17.54 |
アンセム(ANTM) | 11.96 |
CVSヘルス(CVS) | 9.19 |
ヒューマナ(HUM) | 15.54 |
シグナ(CI) | 11.91 |
こちらは製薬会社よりわかりやすく全体的に低PERだと思います。
3番目にあるCVSはドラッグストアの会社ですが、2018年に業界3位のエトナを買収しています。
ちなみにこちらに挙げた会社は健康保険を扱っている会社です。自動車保険や火災保険の会社とは異なります。
アメリカは二大政党制です。そのときの趨勢によって共和党と民主党の支持率は増減しますが、ざっくりと半分ずつと考えると、アメリカ市場に投資しているアメリカ人投資家のうち、半分はこういった企業に対してあまり良い印象を抱いていることになります。影響は決して小さくないのかなと思いますが、最初に述べたようにこれはあくまでも私の想像の域を出ません。
そもそも低PER銘柄は低PERに放置される傾向があります。製薬・保険のほかに低PERに長年放置されている業界として銀行株があります。
私はアメリカ人ではありませんが、個人的な考えとしては民主党に近い部分があります。日本の皆保険制度は誰でも気軽に病院に行けるという医療サービス上の公平性を担保していると思いますし、アメリカでも導入した方がいいのではないかと思います。銃規制も反対する理由がよくわかりません。
しかし、基本的に各企業は行政が決めた枠組みの中で事業を行っています。法に反しないかぎり、利益を追求するのは企業の宿命ですし、経営陣は株主にその責任を負っています。そういった面では共和党的な考えに近いかもしれません。薬価が高止まりするのは製薬会社の責任ではなく、政府の責任だと思います。
私は投資行動には政治的なバイアスは基本的に考慮しないようにしています。薬価の高止まりの責任は製薬会社にあり、だから製薬会社には投資しないという風には考えません。
政治的なバイアスが人々の投資行動にどこまで影響を与えているのかはわかりませんし、私は証券会社のアナリストではないのでそこまで突き詰めて研究する能力もモチベーションもありませんが、そういったバイアスが製薬会社・保険会社にかかっている可能性があると頭の隅に置いておいてもいいかなと思います。
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