金融リテラシーが低くても大丈夫だった日本は幸福な国だった(?)

金融リテラシーの記事を読むとよく日米で比較がされて、「アメリカ人は金融リテラシーが日本人より高くて実際、投資されている金額も大きい」という意見を目にします。

上のグラフをみると確かに日本は家計の資産の半分以上が預貯金なのに対し、アメリカではわずか12.7%です。

アメリカの方が日本よりも投資が一般的なのは事実のようです。しかし、往々にしてこういった意見では「だから日本はダメなんだ」というニュアンスが含まれていることが少なくありません。

私はそうは思いません。むしろ、個人が投資する必要がなかった20世紀の日本という国はある意味、経済的には恵まれていたのではないかと思います。

終身雇用、人口増加と勤勉な国民性

戦後、日本は焼け野原からの再出発でした。戦後直後の東京駅周辺の写真を見たことがありますが、本当に何もない焼け野原でした。
50年代から大阪万博が開催された1970年ごろまでの高度経済成長、やがて70年代にはニクソンショックやオイルショックによる不況をを経て80年代のバブル景気を迎え、90年代以降はバブル崩壊によるデフレ不況に悩まされ、90年代、2000年代は失われた20年と形容されることもあります。

日本が焼け野原から劇的な高度成長による復興を成し遂げたのには「終身雇用」や「企業戦士」といった社会システムや商習慣と真面目で勤勉な国民性がマッチしたことが大きな原動力になったと思います。

一旦就職したら、従業員はその会社に骨を埋める覚悟で懸命に働く、会社は従業員が定年を迎えるまでの生活を保証する。真面目に地道に働いていれば給料も役職も年を経るごとに上がっていく。余程の不義をしない限り会社から一方的に解雇を言い渡されることはありませんし、給料も上がっていきますから、お金の面で余計な心配をする必要はないし、仕事で忙しくてそんな心配をする暇もなかったかもしれません。しかも経済はインフレ基調で銀行の預金金利も5%〜7%台なので稼いだお金は銀行の定期預金口座に預けておけば間違いない。バブル崩壊までの日本では資産運用は基本的には必要なかったのでしょう。それはある意味、幸せなことなのかもしれません。

ただ、単に「昔は良かった」と言いたいわけではありません。光があれば必ず影があります。終身雇用ですから、そのレールから一旦外れてしまうとそういった安定感は失われますし、転職は今よりハードルが高かったはずです。ライフワークバランスなんて言葉も概念もありませんでしたから、会社員は朝早くから夜遅くまで全身全霊を仕事に費やすことが求められます。しかもどの会社も基本は週休1日でした。今でいうパワハラ・セクハラも格段に多かったでしょう。やがて過労死が社会問題化するようになり、海外でも過重労働による死亡が日本語そのまま「カロウシ」で通じるなんて事態も起こってきます。

学校を卒業してから定年まで、真面目に地道にしかもモーレツに働いて順調に昇進してきた人たちにとっては「昔は良かったなぁ」と懐かしむことができる時代かもしれませんが、終身雇用のレールから外れてしまった人や過労で倒れた人、パワハラ・セクハラで精神的に追い込まれた経験がある人たちにとってはそうとも言い切れないでしょう。

みなさん、時代は変わったんですよ by 金融庁

2019年に金融庁が公的年金以外に老後資金として2,000万円が必要という報告書を公表し大きな話題となりました。
あれはある意味、政府から国民へ向けての「時代は変わったんですよ」という通告だったのではないかと思っています。つまり、今までは終身雇用、年功序列で就職したら真面目に愚直に定年まで働いて、稼いだお金は銀行に預けておけば老後の心配も準備もする必要もなかったけど、今後はそうはいきませんよ、iDeCoやNISAもありますからある程度はご自身で老後の準備もしてくださいねということだと思います。
ただ、政治家はある意味人気商売ですから、総理大臣や閣僚が直接言うと過度に反感を買う恐れがある、かと言って国民が預貯金マインドのままでいられても困る、結果的に政府は選挙とは無縁の官僚組織の金融庁からの報告書という形で発出したのかなと思っています。

マイクロソフトの日本法人では週休3日が部分的に導入されたとニュースになりました。今後もライフワークバランスの動きは加速していくでしょうし、するべきだと思います。
さらにコロナウィルスはテレワークという大きな課題を日本企業に突きつけました。日本企業は欧米と比べて紙文化、対面至上主義が残っていてテレワークの導入が遅れているとすでに言われています。日本は変化が起こるまでは遅いですが、一旦、社会の流れが決まると一気にその方向に流れていく傾向があると思います。
将来、「昔は皆、月80時間も残業していたらしい、今では考えられない」といった声や「昔は1時間もかけて満員電車でオフィスに出勤していたらしい、ありえない」といった声が当たり前の社会になるかもしれません。

一方で、そういった流れがグローバル化の恩恵だとすると、金融マインドのグローバル化、つまり「老後資金はある程度自分で用意しましょう」という考えへの変化の流れも避けられないでしょう。
預貯金しておけば安心という社会はある意味、幸せな社会かもしれませんが、みなさん、時代は変わったんですよ。