靴磨きの少年と過熱相場の真実

ジョン・K・ガルブレイス著『大暴落 1929(原題:THE GREAT CRASH 1929)』という本を読みました。

1929年のウォール街での株価大暴落のとき、何が起こったのかについての本です。
結果的には当時の株式相場はバブルだったということなのですが、なぜバブル相場は起こったのか?が客観的な事実を踏まえて述べられています。

靴磨きの少年が株式投資の話を始めたら株を売れ

1929年当時の有名な逸話に靴磨きの少年の話があります。

1929年の大暴落の直前のある日、ある投資家が靴磨きの少年から「〇〇の銘柄を買った方がいいよ。すごく騰がるらしいから。」と言われます。その投資家は「普段株を買うことなどない靴磨きの少年までもが熱中している株式相場はバブルに違いない」と思い、持っていたポジションをすべて売り払ったところ、数日後本当に株価が大暴落したという話です。

靴磨きの少年から話を聞いた投資家がジョン・F・ケネディ大統領の父親のジョセフ・P・ケネディ氏だったなどと尾ひれがつくこともありますが、大まかにはそのような話です。

実話であるかどうかは疑わしい話ですが、1929年の大暴落の直前の相場の過熱感を伝える有名な逸話です。
この話を踏まえて、普段株式投資に興味のない人たちが株の話を始めたら相場が過熱していて天井が近い証だから要注意という教訓が語られることがあります。

1929年の相場では本当に誰もが株に手を出していたのか?

年明けからネット上の掲示板で情報を仕入れ、ロビンフッドで株式投資(投機)する若い人たちに注目が集まっています。
1月末にはゲームストップ(GME)という銘柄が異常に高騰して株式市場全体が急落しましたし、先日は私がフォローしていたロケット・カンパニーズ(RKT)がロビンフッダーの標的になり株価が急騰・急落したこともありました。

ロビンフッダーたちはまさに「普段、株式投資に興味のない人たち」です。ロビンフッダーの存在をもって、今の相場はバブルだと言う人もいます。

今の株式相場がバブルか否かは別として、私は「普段、株式投資に興味のない人たち」が株式投資を始めたことだけをもって相場環境を判断するのは、いささか短絡的すぎると思います。

そもそも1929年の大暴落の直前には本当に誰もが株式投資に熱中していたのでしょうか?
『大暴落 1929』では客観的なデータをもとに、1929年にいったいどのくらいの人が株式投資をしていたのか突き止めようとした上院の委員会での調査が紹介されています。その部分を引用してご紹介したいと思います。

当時アメリカには29の取引所があり、会員証券会社は顧客数を記録しているが、それによると154万8707人だという。(中略)つまり当時1億2000万人あったアメリカの全人口のうち、さかんに株取引をしていたのは150万人強にすぎない。しかも全員が投機をしていたわけではない。(中略)信用取引をしていたのは60万人程度だという(以下略)。

(中略)

28年末から29年7月末にかけて、アメリカ人はレミングよろしく株式市場に押し寄せたとされているが、信用取引をする顧客の数は、国内の取引所全部を合わせても5万強増えたに過ぎない。

ジョン・K・ガルブレイス著『大暴落 1929』

どうも客観的なデータをもとにすると、1929年の大暴落の直前でも株式投資する人が急激に増えたということはないようです。

先にご紹介した靴磨きの少年の話はいかにもあり得そうな話で非常にキャッチーです。さらにそこにケネディ大統領の父親で著名な相場師だったジョセフ・P・ケネディ氏を絡ませ、都市伝説化して広まったというのが、ことの顛末ではないでしょうか。

ただ、投機が相場を異常に過熱させ大暴落を招いたことは事実で、これは2009年の金融危機の際の主因としても言えることです。さらに、今、ロビンフッダーといわれる人たちが行っている取引もほとんどは投機といっていいでしょう。

バブル相場は数十年おきに起こりますが、対処するには過去の事例を学ぶことは重要なことだと思います。
最近、過去のバブル相場や金融危機について勉強しようと思い、本を何冊か購入しました。本書が1冊目でしたが、客観的なデータと歴史的な事実をもとに株価暴落のメカニズムを分析した素晴らしい本だと思います。