リスクを取らないリスク

投資家はなぜ企業の利益の一部を享受できるのか?

よく投資からの利益に対して『不労所得』という言葉が使われることがあります。読んで字のごとく労働をせずに得られる収入という意味です。

労働もせずに会社の利益を搾取するなんてけしからん!というところからスタートしたのが共産主義です。不労所得で私腹を肥やしている投資家や資産家たちを社会的、時には物理的に抹殺して、すべての企業を国有化してしまいました。

1917年に起こったロシア革命以降、半世紀以上の莫大な時間と、人命を含めたあらゆる資源の犠牲を払った壮大な社会実験の結果、共産主義はうまく機能しませんでした。

おそらく、この先数十年で資本主義に取って代わる画期的な社会経済制度が発明される可能性は低いでしょう。私は死ぬまで資本主義社会の中で生きていくことになるだろうと思います。

ではなぜ、資本主義社会では実際に労働しているわけではない投資家が利益の一部を享受することが許されているのでしょうか?
それは投資家が会社の株式を所有することによってその会社のリスクを負担しているからです。

資本主義では競争によって各企業が切磋琢磨することによって経済が成長していきます。共産主義の大きな失敗の要因は一切の競争を市場から排除してしまったことにあります。競争のない社会では経済は成長しません。

つまり、資本主義の激しい競争の中では起業したり、企業の一部を所有することにはリスクが生じます。最悪の場合、激しい競争に破れて会社が破産する可能性だってあります。そういったリスクを負担する報酬として起業家や投資家は労働せずとも収入を得ることができるというわけです。

リスクを取らないリスク

先日、『リスクを取らないリスク』という本を読みました。著者は私がいつも意見を参考にさせてもらっている堀古英司さんです。

この本では投資はもちろん、年金、保険、住宅、キャリアなどあらゆるリスクについて述べられています。
人間はリスクを回避したがる本能を持っているとし、皆が忌避するリスクを取らせるためには、それなりのリターンを用意しなければならないと述べています。先ほど述べた投資家が利益を得られる資本主義の仕組みがリスク負担という観点から解説されています。

この本ではなぜ日本株よりもアメリカ株のほうが投資妙味があるかという話はされていますが、具体的にどういった銘柄を選ぶべきなどという投資のテクニックは書かれていません。投資のイロハを知るという意味ではあまり役立つ本ではありません。

しかし、そもそも株式投資にはどういう社会的意義があって、なぜ投資をすることによってその会社の利益の一部を受け取ることができるのかということを論理的に理解することは投資家にとって非常に重要なことだと思います。

株式投資でもっとも大切なことのひとつはリスク管理だと思います。リスク管理を疎かにしてしまうと、私が昔FXに手を出して大やけどをしたように、市場から強制的に退場せざるをえなくなる状況に追い込まれてしまう可能性があります。
投資という行為が社会的にどういう意味があって、リスクを負担するということがどういう意味なのかを理解せずにリスク管理するということは非常に難しいことだと思います。

日本に足らない『リスクを取らないリスク』という考え方

リスクを取らないリスクは投資だけに限ったことではありません。

この本では、保険や年金、住宅購入などお金に関するリスクのほか、自分のキャリアをどう築いていくかなど直接お金に関わらないリスクが取り上げられています。

著者の堀古氏は『リスクを取らないリスク』という考え方が日本には足りないと主張しています。

現在、日本が置かれている状況を考えると、まさに『リスクを取らないこと』がリスクになっていて納得させられました。

日本では新型コロナワクチンの接種状況が非常に遅れています。接種回数はG7の加盟国の中では他に大きく離されて最下位です。

国名100人あたり接種回数
アメリカ38.6
イギリス46
ドイツ13.8
フランス13.2
イタリア13.7
カナダ11.2
日本0.6
3月25日現在 日経電子版のデータに基づく

私はワクチン接種によって完全にコロナ前の生活に戻れるとは思っていません。最低でもマスク着用は引き続き必要になるでしょう。
しかし、ワクチンの接種によって社会的・経済的な制限を緩和できるようになることは間違いないようです。

日本政府(特に厚生労働省)には過去に薬害事件が社会問題化し、政府の責任が問われ大きな批判を浴びたトラウマがあるようです。
厚労省のトラウマや日本人の国民性からも日本政府がワクチン接種に慎重になるのはよくわかります。さらにワクチンの確保が簡単ではないことも重々承知しているつもりですが、それらを踏まえたとしても日本のワクチン接種の進展は遅すぎると思います。

海外のワクチンのニュースを見ていると「ワクチン接種はメリットが副作用などのデメリットを上回る」という言い回しを耳にすることがあります。まさに『ワクチン接種というリスク』と『ワクチン接種というリスクを取らないリスク』とを比較した上で、政策決定がなされているということを感じさせられる文言です。

他の主要国でワクチン接種が進み経済が正常化に向かう中で、ワクチン接種というリスクを取らなかったことで、経済の正常化が大幅に遅れてしまうというリスクに日本は直面しようとしています。